04.巡り巡ってさあ大変


 ――鋼鉄の処女から鎧が剥がれ落ちたのならば、そこに残るのは穢れの無い程に弱き乙女の姿のみである。だからこそ、剥き出しの彼女の弱さに悪魔は惚れ、願いを叫ぶその心を手に取ったのだろう。


 バゼット・フラガ・マクレミッツが家を出たのは、十五歳の頃だった。
 決してその環境が嫌だった訳では無い。田舎と言っていい場所だったが、彼女の家は十分に恵まれていた。神代の頃より続く血。伝承保菌者と呼ばれる魔術師の家系に生まれた彼女は、魔術師としての才も力も十分なものだった。
 しかし、彼女はそれだけしかなかった。自分はただそれだけしかない、無価値の存在であると思っていた。そして、何も出来ない己のまま朽ち果てていくことを彼女は怖れたのだ。弱い自分が堪らなく嫌で、だからこそ彼女は出来る限り自分を鍛え上げようとした。……皮肉にも、鍛え上げているものが己そのものでなく、纏っている鎧だということに気付いていながら。
 そうして、両親の反対を振り切って、バゼットは魔術協会へとその身を置いた。たった十五歳の小娘だった。されど、彼女の持つ実力と神秘は、協会が断る理由など見当たらない程、優れたものであったのだ。
 しかし、それが歓迎と同意だったのかと問われれば、首を横に振るしかないのだろう。事実、魔術協会に彼女の居場所など無かった。有能な新参者など協会では煙たがられる一方でしかない。だからこそ、自らの価値を認められる為に、彼女は率先して仕事を行ったのだ。自分の一番得意とする実戦の任務を引き受けた。それには見合った報酬も無く、ただ己が手が血に染まるのみ。それでも彼女は苦とも考えず、幾度もそのような厄介払いを請け負っていき、確かな成果を上げていった。
 一つ不幸があるとするならば、協会の貴族達から吐き出されたものを全て耐え切れる程、彼女の纏った鎧が頑丈だったということだろう。
 暫くした後、とうとう彼女は魔術協会から一つの籍を与えられた。――封印指定の実行者。その名こそ、彼女に授けられた役割である。
 魔術師という異端な人種の中でも、更に異端。例外にして規格外。それが、封印指定を与えられた魔術師である。どれを告げられた魔術師達は、ほぼ例外無く協会から姿を消す。協会に封印されるとなれば己ごと魔術が保存され、今後研究をすることすら出来なくなるからだ。バゼットの仕事は、そんな彼等を協会の名の下に保護することであった。
 それから、彼女はがむしゃらに協会に与えられた任務をこなしていった。埋まらない何かを、それでも埋めようと。埋まらないとわかっていながら、それでも埋めようと。その人生に不器用なまでの息苦しさを感じながら、頑丈な鎧を着こなして、バゼットは自分の価値を見出そうとしていったのだ。
 その道のりの中で、彼女は鎧に埋もれている己が揺さぶられるような出来事に遭遇する。だが哀しきかな、二十三年という短くもない歳月において、それはたったの三度。片手指で十分こと足りる程度の数だ。しかし、その価値はきっと計りきれぬものなのだろう。これからの彼女の歩む道において、それ等の出来事は何よりも忘れ得ぬものなのだから。
 ……そんな彼女が始めて揺れたのが齢十七の頃。魔術協会へ赴いてから、およそ二年後のことである。
 鎧の中の彼女を動かした一つ目の出来事は、ある男との三度の出会いであった。
 封印指定の保護という任務の最中、バゼットは一人の神父に出会った。代行者。エクソシストでなくエクスキューターと呼ばれる、聖堂教会の信徒であるその男は、名を言峰綺礼といった。
 敵ながら同じ標的を追う者同士として戦場で出会い、彼女は彼と手を組んだ。魔術師と代行者。本来ならば共に肩を並べることなど有り得ぬだろう。しかし根拠も無しに、バゼットはその代行者の言葉を信じた。魂さえ消せればそれでいい、と告げる彼の言葉には、一片たりとも嘘が含まれていないと、バゼットは感じることが出来たのだ。
 そして、その出会いの後も二度、バゼットは言峰綺礼と出会った。魔術師と代行者。互いに敵視する間柄の筈だというのに、彼女は密かに偶然の再会に感謝した。バゼット・フラガ・マクレミッツにとって、言峰綺礼という男は憧れだったのだ。自分と同じように己の弱さを嘆いていた過去を持ちながら。彼の在り方は、何よりも彼女が尊く思えるものであった。誰も必要とせず、誰から必要とされなくてもその男は生きていけた。ただ自分の正しさに彼は生きていた。言峰綺礼は悪でありながら、彼女がこう在りたいと望むようなキレイな人間であったのだ。
 だから、バゼットは彼に尊敬の念を抱き、もし彼に必要とされたら――と、そんな思いすら抱いた。一人で生きていくことが出来る彼に必要とされたのならば、きっと彼女は自身に何よりもの価値を見出すことが出来たのだろう。仮に他人を求める心を愛と呼ぶのならば、バゼットが言峰綺礼に抱いた思いは、恐らくそう呼ばれるものに似た感情だったに違いない。
 三度目の遭遇を最後に、彼と出会うことは無くなった。血生臭い仕事はそれからも続いたものの、あの出会いが一時の夢幻だったかのように彼との交錯は生まれなかった。恐らく自分達はもう会うことも無いのだろう――と、その思いを抱く一方で。戦場に出る度に、また彼と出会わないかと心の底で望んでいる己を彼女は自覚していた。
 そして、最後の出会いから六年後。聖堂教会より魔術協会に送られた一通の手紙が、バゼットを四度目の彼との再会をもたらすことになる。
 二度目の出来事は、その手紙によって誘われた土地でバゼットを襲った。
 それは、彼女がかつてから見えることを望んでいた人物との出会いだった。彼女の故郷に住まう者なら、誰もが知っているであろうケルトの民話。そこに登場する、勇ましき槍の戦士。それが、その人物――アルスターの光の御子、クー・フーリンであった。
 今の世にも伝承によって謳われ続けている英雄を前にして、バゼットはただ己の身体を震わすことしか出来なかった。聖杯戦争の為にサーヴァントを召喚するにあたり、彼女はクー・フーリンが身に付けていたと言われているルーン石のピアスを媒介とした。ならば、それを使って英霊の喚んだ以上、こうして目の前に彼が現れるのは道理であり、紛れも無い現実であろう。当たり前のことに、臆する理由など彼女には無い筈だ。
 しかし、彼が現れることを理解していたからこそ、バゼット・フラガ・マクレミッツは震えることしか出来なかったのだ。それも当然だろう。彼の実在を信じられぬ心で。それでも、もし本当に彼を召喚出来たのならば、きっと自分は何よりも――と、そんな心で。彼女は憧れでもある彼を呼び出したのだから。
 幼少、彼女がまだ両親の元で修行に明け暮れていた頃の話である。何ごとにも興味が無いかのように、ただ魔術との日々に明け暮れていたバゼットだったが、唯一それに対してだけは幼心に興味を持った。父の書斎にあった昔話。勇敢なる猛犬の物語。
 彼女は、彼の生き様を見て哀しく思った。そして、子供ながらこうも思ったのだ。もし叶うのならば、哀しい運命を生きた彼を救いたい、と。考えれば、それこそが初めて純粋に願ったことなのかもしれない。余りにも当たり前の願いを、本当に申し訳が無さそうに彼女は抱いた。
 だが、その裏でバゼットは、その道を迷うことすらなく走り抜けたその生き方を怖ろしくも思ったのだ。自分には無理だ。そんな哀しい運命に抗うことなく、ありのまま受け入れることなど出来ない。弱い彼女は、強い彼の在り方に畏怖したのだ。
 何にせよ、作業のように日々を過ごしていたバゼットにとって、その御伽噺は初めて心から興味を持ったものだったのだ。その意味では彼との出会いは、二度目の再会でもあったといえよう。
 そして、バゼットは故郷の英雄の召喚に成功した。本当にいた。会えたのだ。そのような思いと共に身体を、心を震わせながら、彼女はそれを悟られぬよう慎重に口を開いた。
 貴方が――クー・フーリンですか、と。
 本当ならば、訊ねる必要などなかったのだろう。彼の手が掴む血塗れの槍。伝説に聞く赤き魔槍ゲイボルクを持つ者など、彼以外に誰がいよう。
 彼から返ってきた答えは果たして、獰猛な程に頼りがいのある肯定だった。力強く、彼女の心の内の揺れを知っているかのように、見る者を安心させる肯定だった。それを前にして、バゼットは確信した。きっと、彼とならばこの聖杯戦争を勝ち抜ける、と。
 それから十日間。バゼットは、彼――ランサーと共に短き時を過ごした。その日々は、彼女が思い描いていたものではなかった。一日過ぎていくごとに、彼への憧憬は幻想のように壊れていく。飄々と主である彼女をおちょくり、そこからは昔見た何をも恐れぬ姿は見られない。だがそれでも、彼に背を任されたことが何よりも嬉しいものだった。彼の無邪気な笑い声が何よりも暖かいものだった。……たった十日。されど、その日々はきっと輝いていたのだろう。
 そして。
 ――その十日目を最後に、バゼットは彼と左手と大切な何かを、永遠に失ったのだ。


 さて、そこはかとなくシリアスのように見える話はさておいて。そんな背景など露も知らぬ衛宮士郎ご一向は、左腕から血を流しながら恍惚の表情で悶えている男装の麗人――バゼット・フラガ・マクレミッツを見てドン引きしていた。いや、セイバーだけはいまだに飴を食べ続けているのであるが。
「はぁ、はぁ……何故、ですか?」
 左手を切られてくやしいでも感じちゃうとでも言いたげな表情で、彼女は吐息を洩らしている。
 鎧が剥がれ落ちた穢れの無い程に弱き乙女は、残念ながら真正のマゾでしかなかった。バゼット・フラガ・マクレミッツという鎧の中にいたのは、ただのダメット・フラガ・マクレミッツであった。
 憧れの相手によって痛めつけられた肉体。奪われて敵となったパートナーの英雄。これからどんな恐ろしいことをされるのか想像するだけで、彼女の火照りは更にましていった。動悸は治まることを知らず、溢れんばかりの血の熱流を巡らせる。自身の左手を一生失ったというのにも関わらず、彼女の心はこれまでにないくらい揺れ動いていた。剥き出しにされた己の弱さは、快感へと転化する。
 これが、覚醒の瞬間であった。
「――何故、もっとしないんです!?」
 問われた言峰綺礼とかつてのパートナーは彼女の方を見ておらず、その視線を彼女の背後に向けている。しかし、それでも止まろうとしない変態の声を聞いて、二人のこめかみは地味にピクピクと胎動していた。それでも、バゼットの存在をなかったことにしようと頑張っていた。そういう意味では、唐突な闖入者の存在には感謝してもしきれない。
「――ふむ、今夜はここを訪れないと思っていたのだがな。やはり、おまえたちの行動は予測が付けられん」
 この教会の主である神父は、血に濡れた手を掲げながら、そう告げる。
 だが、そんなことを言われても、彼らに答える言葉などあろうか。士郎と凛、切嗣だけでなく、サーヴァント達ですらも苦い表情のまま立ち尽くしている。
 一方、バゼットはここでようやく新たなる登場人物たちに気が付いた。
 当然のことながら、彼女の脳内は混乱の極みにあった。腕一本斬られ、令呪を失い、更にはサーヴァントを失ったというのに、体を昂ぶらせ悶えていたバゼット。そんなものを複数の人間に目撃されてしまったのである。マゾの羞恥心を揺さぶられる出来事だが、彼女に残されている常識がそれを許さなかった。火照っていた顔は一瞬で真っ青に染まる。そして誰もが止める間もなく、バゼット・フラガ・マクレミッツは残された右の鉄拳で教会の窓をぶち破り、彼方へと消えていったのである。勿論、誰も止めるつもりなどなかった。
 残念ながら――残念ではないのかもしれないが――、彼女の物語はここで一端停止することとなる。 
 余談であるが、拠点としていた洋館に引き篭もったバゼットは、そこで三度目の出来事と遭遇する。一人の神父と一人の英雄。そして唐突な訪問者。彼らと別れ、恥辱の淵でバゼットは三度目の衝撃を迎えたのだ。鎧が剥がれ落ち丸出しとなった弱い彼女は、ただ「恥ずかしいでも感じちゃう」と願いを祈り、そんな思いに惹かれるように――それは残された彼女の手を取った。
 ――そう。そこで、彼女は出会うことになる。
 ある少年の殻を借りた、ある一人の英霊に。弱く、嘘吐きで、何よりも厳しい悪魔に。


 しかし、そんなサドマゾの需要供給関係が追い付くのは未来のことであり、今を生きる彼らには関係がないのである。世界はアホに進んでいき、この教会においてもその道理は覆らない。
「フン、おまえにしては下らぬ余興だな、言峰」
 長くもなかった静寂を破ったのは、綺礼の呟きに返答したギルガメッシュだった。彼は、セイバーの背後で傍若無人に立っている。血が苦手なのだから仕方がない。
 綺礼は当たり前のように彼を無視し、集団の最後方に立ち尽くす人物へ視線を向ける。
「久しぶりだな――衛宮、切嗣」
「ちょっと前に電話で話したけどね」
「何、こうして直接対面するのは正月以来だろう」
 ――衛宮切嗣と言峰綺礼。
 彼らの物語は、今から一〇年も前に遡る。第四回目の聖杯戦争で、彼らは生涯の宿敵となる人物にであった。その時の戦争は、一言では表わせぬほど混沌としたものだった。その深淵の底で二人が見つけたものはわからない。しかし、彼らはあの日の戦争を生き残り、何の因果かお互い冬木に居座ったまま、今日まで天敵という関係を続けてきたのである。
「それで、さっきの人は何なんだ?」
「おまえの息子やそこの凛と同じ、マスターの一人だ。協会から送られてきた魔術師でね。この戦争にこれ以上アホが増えるのは監督役として正直困るので、早々に退場してもらっただけだ。――それにしても、凛。おまえがこの教会を、それも衛宮と訪れるとはな。夢にも思っていなかった」
 そうして、自分のものでない血に濡れたまま、神父は先頭にいる凛へ視線を向けた。
「誰が好き好んでこんなところに来るかっての。あの金ピカのせいよ」
「ほう、ギルガメッシュの気まぐれもたまには役に立つのだな。……だが、ここを訪れるなら、せめてあと一日は遅くしておけば良かったものを。その方が、お互いにとって都合が良かった」
「同感」
 凛は、一つ溜息を吐く。
「それで、何。ついでにちゃっかりマスターになってしまったってワケ?」
「せっかくのサーヴァントだ。使わぬのは勿体あるまい」
 さも当たり前のように綺礼はそう返答し、一歩後ろに下がる。
「さて、紹介しておこう。先程、私のサーヴァントとなったランサーだ」
 そして、士郎たちの道を阻むかのように、空いたスペースへ名を呼ばれた青きサーヴァントは足を進めた。肉食獣の如き獰猛な笑みを浮かべて、ランサーは心躍る闘争の予感に歓喜する。言峰綺礼に従わなければならない、という事実にはいささか不満があったが。
「タイツだ」
「タイツね」
「うん、タイツだね」
 だが、彼らにしてみれば、また再び変態が現れたようにしか見えなかった。ランサーの全身を包む装束は、気持ち悪いくらい肌に密着していた。まさにタイツだった。そして、気持ち悪いくらい股間はもっこりしていた。
「――」
「――」
 殺気立った槍兵の出現に、アーチャーは武装する。ようやく飴を全て食べ終わったからか、セイバーも鎧を纏いしっかりと両手で見えぬ剣を握っていた。ギルガメッシュは、血が怖くて礼拝堂の奥まで近づけない。
「――訊こう。その身は如何なるサーヴァントか」
 やはりワンテンポ遅れた様子で、セイバーは問う。
 ランサーは無言。ただ己が宝具を顕現させることで答えを口にする。その右手には握られるのは、二メートルもの血濡れた赤き槍。ランサーの名を冠するに相応しい、神代の魔槍であった。
「ハ――その身でとくと知るがいい!」
 獣じみた表情を彼は見せると、槍を構えて声を上げる。興奮していた。そして、気持ち悪いくらい彼の股間はいきり立っていた。
「槍だ」
「槍ね」
「うん、槍だね」
 まさに槍だった。衝撃の事実。実はランサーは二槍使いだったのである。
 ともかく、ランサーは腰を落としてセイバーとアーチャーを見据える。そして、彼が駆けようとした瞬間――マスターである言峰綺礼の言葉によって、その疾走は邪魔された。
「――どういうつもりだ、オイ。敵が目の前にいながら闘うな、だと?」
「当たり前だろう――」教会の主は、醒めた瞳でランサーに告げる。「そんなことより、礼拝堂の掃除が先だ。ここをいつまでも血で濡らす訳にはいくまい」
「そうだ、そうだ!」
 掃除をする。掃除をすれば血が消える。ここがチャンスとばかりに、ギルガメッシュが叫ぶように声を上げた。いい加減、皆のところへ行って会話に参加したかった。
「そもそも、おまえを私のサーヴァントとしたのは聖杯戦争の運営のためだ。いつの回も参加者はアホばかり故に、揉み消しの手間がかかりすぎるのだ。これでは、人手がいくらあっても足りん。ギルガメッシュは使えぬしな。そういう意味では、おまえには期待している、ランサー」
「……ってことは、まさか」
「――おまえの仕事は戦闘ではない」
 そう、言峰綺礼はマスターの資格は持っているものの、此度の聖杯戦争で選ばれた七人のマスターではないのである。この第五次聖杯戦争において、彼に与えられた役割というのは監督役に他ならない。
 つまり、そんな人間を主とするランサーの仕事は、自然と彼の補佐になるのである。具体的には、破損した物品の修繕や、教会への報告書作成。果てには、冷蔵庫の中身の買い物までにも至る。アホたちの監督役、言峰綺礼は忙しい。
 そして、ギルガメッシュではないもののこの空気をチャンスと見たのか、他のマスター二人もここぞとばかりに口を挟む。最早、彼らにやる気など一欠けらも存在しない。いい加減、家に帰りたかった。
「アーチャーも武器をしまって。じゃないと、殴っ血KILLから」
「……わかった」
 顔を青く染めながら、アーチャーは指示通りに武装を解く。彼のトラウマはいまだに拭い切れられていないらしい。一方、セイバーは明日の食事を餌にしたら、一瞬で士郎に釣られていた。
 既に、礼拝堂の空気には緊迫感などない。真面目に戦おうとしていたランサーですら、己のマスターに食ってかかっていた。
「じゃあな、言峰。俺たちは帰る。ギルガメッシュも今度からは一人で帰れよな」
「雑種に命じられる謂れはない。……別に寂しくなんかないのだからな! 我にはエンキドゥがいるのだ」
「それよりシロウ。武装を編んだのでお腹が空きました」
「ほら、元気出しなって、士郎」
「……私は、なんでここにいるんだろうな」
「そんなの、わたしに呼ばれたからに決まってるじゃない」
 皆が皆、思い思いのことを口にする。戦うのは一体、いつになることやら。口論を始めた神父と槍兵を横目に、士郎ご一行は踵を返す。寂しそうな瞳のギルガメッシュに見送られながら、彼らは来た道を戻っていった。


 しかしながら、これで終わりかと油断していた彼らを、またまたまたまた待ち受けてるものがあった。まだ二月一日は終わらない。坂道を下りきった交差点。ここで、彼らはもう何度目変わらない面倒事に巻き込まれる。
「――はじめまして、お兄ちゃん」
 新たなるアホ。
 そう。おかげで話が進まないくらい、アホの輪はいまだグルグル回り続けるのである。


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